
翻訳プロジェクトで遅れや余計な費用が発生するのは、翻訳者が最初のファイルを開く前であることが少なくありません。背景情報の不足、文章に対する修正の不統一、扱いにくいファイル形式は、作業日数と予算を圧迫します。幸い、こうした問題は簡単な対策で解決できます。ここでは、翻訳を依頼する前に文章について何を準備し、どのような情報を依頼先に伝えればよいかを説明します。
下書きのまま渡してはいけない理由
翻訳者は、受け取った文章をそのまま翻訳します。表現の候補や、同僚が括弧書きで残したコメント、「TODO」といった項目が残っていれば、それらもすべて翻訳に含まれます。その後、不要な箇所の翻訳に費用を払うか、どの版が最終版なのかを確認するために、依頼先とやり取りする時間を費やすことになります。
よくあるのが、マーケティング部門から翻訳に出したプレゼン資料の3枚のスライドに古い数値が残っており、別の1枚には「法務に確認」と書かれているケースです。翻訳者は、古い情報も含めてすべて忠実に翻訳します。その結果、結局あとで修正が必要な文章のために、翻訳費用を支払うことになります。
送付前に、文書の内容が関係者間で合意されていること、数値が最新であること、コメントや修正がすべて反映または削除されていることを確認しましょう。「翻訳用」のファイルは最終版であり、公開または提出する予定のものと一致している必要があります。
使いやすいファイル形式と避けたい形式
最適なのは、DOCX、ODT、TXT、RTFなどの編集可能な形式です。組版が必要な素材で、共有できる場合は、InDesignやFigmaの元データも適しています。翻訳者は翻訳支援ツールを使うため、簡単にコピーできるテキストなら、準備にかかる時間を短縮できます。
避けたほうがよいもの:
書類のスキャンデータや写真。画像内の文字はまず読み取る必要がありますが、特に表、印影、小さな文字では読み取りミスが起こりやすくなります。誤りの修正に、翻訳そのものより時間がかかることもあります。ほかに方法がない場合は、高解像度でスキャンし、画像データであることを依頼先に伝えましょう。
スキャナーで取り込んだPDFや、画像から変換したPDF。見た目は問題なくても、テキストをコピーできない場合があります。元のWordファイルがある場合は、そちらを送ってください。
プレゼン資料やインフォグラフィック内の画像に含まれるテキスト。バナーやボタン、図表内の文言は見落とされやすく、翻訳者が手作業で書き起こさなければならないこともあります。重要なテキストは別の文書にまとめてください。
必要のない複雑なレイアウト。テキストが何百ものブロックに分かれていると、翻訳に時間がかかり、組版時にレイアウトが崩れることもあります。このような素材では、完成ファイルをどの形式で受け取るか、事前に取り決めておくとよいでしょう。
背景情報:誰が、何のために読み、どこに掲載するのか
同じフレーズでも、文脈によって適切な表現は異なります。「最大30%割引」という言葉も、若者向けの広告メールと売買契約書では、まったく異なる訳し方が必要です。そのため翻訳者には背景情報が欠かせません。詳しく伝えるほど、翻訳の精度が高まります。これは専門的な翻訳でも、個人的な用途の翻訳でも同じです。
いくつかの質問に答え、その内容を依頼先に伝えましょう。誰が文章を読むのか、読んだあとにどのような行動をしてほしいのか、どのような文体で書かれているのか、どこにどのような形で掲載するのか。ウェブサイト、パンフレット、動画字幕、技術マニュアルでは、適切な文の長さや語彙がそれぞれ異なります。
制約事項も伝えましょう。見出しやボタンに文字数制限があるか、段落構成を維持する必要があるか、ジョークや慣用句を意訳してよいか、といった点です。こうした条件は文章からは分からないことが多いものの、仕上がりに大きく影響します。
用語集、過去の翻訳、会社の文体
会社で過去に翻訳した文章がある場合、それはコスト削減に役立つ重要な資料です。製品名、役職名、社内プロセス、サービス名など、承認済みの訳語をまとめた用語集を用意しましょう。たとえば、ウェブサイトのある箇所では「personal account」、別の箇所では「user dashboard」と訳されていると、読者が混乱し、翻訳者もどちらが正しいのか確認しなければなりません。
評価の高い過去の翻訳も共有しましょう。それを見れば、依頼先は、よりフォーマルな文体と会話調のどちらが好みか、「あなた」にあたる敬称を使うのか、敬称を避けた中立的な表現にするのかを把握できます。スタイルガイドや使用を避けたい単語のリストがあれば、あわせて提供してください。
定期的に翻訳を依頼する場合は、用語集と文体に関する「ガイド」を共通の資料として整備するとよいでしょう。新たな依頼のたびに作業を短縮でき、費用も抑えられるうえ、品質を安定させることができます。
翻訳しない箇所と、その指定方法
すべてのテキストを翻訳する必要があるとは限りません。文書には、ブランド名、品番、コード、メールアドレス、原文のまま残すのが一般的な略語のほか、法律上の登録情報やプログラムコードのように変更してはいけない箇所が含まれていることがあります。
事前に指定しないと、翻訳者が不要な箇所まで翻訳したり、どうすればよいか確認したりすることになり、返答待ちで作業が遅れる場合があります。簡単な対策として、該当箇所を文章内で示す、「翻訳しない箇所」の短いリストを添える、または依頼メールにルールを記載しましょう。たとえば、「製品名とSKUの略語は変更せず、日付は納品先の国で一般的な形式にしてください」と指定できます。
固有名詞、単位、通貨の扱いについても、個別に取り決めておきましょう。表記を現地向けに調整する場合もあれば、原文のまま残す場合もあります。依頼書に一行加えるだけで、確認のやり取りを何度も重ねずに済みます。
依頼を送る前のチェックリスト
「翻訳を注文する」ボタンを押す前に、このリストを確認しましょう。数分の確認で、何時間ものやり取りや余計な費用を避けられます。翻訳料金は分量、難易度、納期によって変わるため、原文の状態が整っているほど、最終的な料金を正確に見積もれます。
翻訳に出す文章の準備にかかる時間は、翻訳後に誤りを修正する時間より短くて済みます。送付前に30分かけてチェックリストを確認すれば、依頼がスムーズに進み、仕上がりも期待に近づきます。
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